*オフ本の「Frutte verdi」シリーズの設定、学生スクツナです。
サンプルの「青い果実をまるかじり!編」を見ていただけると、わかりやすいやもしれません。
お時間がございましたら、どうぞご覧くださいませv













「ちょっ……スクー!!!」

「あぁ?」

「おわぁ!な、ななななんで裸なの!?」

「風呂入ってたからだろぉ。つうか、ノックくらいしろよ。テンションたけぇな」

勢いよく開け放った扉の向こう。

スクアーロは半裸で、ジーンズに足を通している最中でした。







青い果実の報復合戦






「…ねえ」

「ん?」

「いきなり開けたのはさ、俺が悪かったと、思う。ごめん」

「あー…んなのどうでもいいぜぇ。気にしてねえよ」

「あ、ああ、そう?いや、でも、えっと、じゃあなんで…」



この学校にやってきて、スクアーロと出会って……もうすぐ一年が経とうとしている。

怒涛のような、一年が。

短くて長い、濃密な一年が。

……けれど。

「どうしたぁ?なにが言いたいんだぁ?はっきりしろよぉ」

妙に間延びした口調。

ゆったりと吊り上る唇の端。

ベッドの上で寝転がり、肘をついて俺を見据える瞳は、意地の悪さをこれでもかと示している。

床に直接座りこんだ俺を、間近でマジマジと見下ろしながら。

「つうか、こっち向けよぉ。なんで絨毯ばっかり見つめてんだぁ」

「………っ!」

「なんだぁ、俺はもう視界に入れる価値もない、とでも言いたいのか?」

「ち、ちが…!」

「だったら」

「だって…!」

チラチラと窺うことは出来ても、直視するだなんてとんでもない!

「怒ってないって言ってんだろぉ。こっち見ろ」

「う……」

「嫌いになったのかぁ?」

「ううー…!」

「そうかぁ…じゃあもう一緒にはいられねえんだなぁ…」

「〜〜〜〜〜もー!!違うってばー!!」

「ん?だったら――」

なお、ニヤニヤしながら俺へと視線を投げかけるスクの言葉を、思わず勢いで遮る。



「だって………だって、なんでずっと半裸のままなんだよー!!!」



それは痛烈な叫びだ。心からの叫びだ。

酷すぎる。

だって、普段はすぐ服着るじゃんか。

いや、別に一緒に風呂入った経験があるわけではなく、まして頻繁に風呂上りのスクに会いにくるわけでもないのだけれど!

でも、お風呂上りでずっと上半身裸ってことは……どんなタイミングでスクの部屋を訪ねてもなかったことだし!

もうすぐ一年……約一年の付き合いだけど、肌を惜しげもなく晒すスクになんて、初めて遭遇しましたよ!

「嫌がらせでしょ!?お、俺が、直視、できないからって…!」

「見ればいいだろぉ。女じゃねえんだから、問題ない」

「あ、う…うん、いや、そうなんだけど…でも…!」

見れない。

そう自覚したのは…スクアーロの告白を受け入れてからすぐのことだった。

体育の後や自主練習、鍛錬の後にシャワーを浴びるスクに付き合うことは、告白前からの習慣だった。

もともと友人の少ない校内で、暇を持て余す度にスクの元へ馳せ参じていたのだから。

スクが行くなら俺もついでに。

自然な流れだ。

意識する以前は、平気だった。

当然だろう、男同士だもん。

見慣れた己の身体と似たようなものが晒されるだけだ。

どうということはない。

けど……好きだと…恋人に、なったのだと自覚してしまってからは……直視できなくなってしまった。

妙に気恥ずかしい、というか……むずがゆいというか……焦りみたいなものが身体中を支配してしまって。

奇妙な汗が噴出しそうになるのをずっと堪えてなければならないのだ。

「お前も大概初々しいよなぁ…」

「ス、スクに言われたくない…!」

「んだとぉ」

むっと唇を尖らせながら、わざと激しく顔を背ける。

まあ、このまま見なくても会話は続けられるし。

ただ、一緒にいられるのに、こう…ずっとなんだかモヤモヤしっぱなしっていうのが、ちょっと勿体ないだけで。



「俺が、それで納得すると思ってんのかぁ?」

心中でこっそりため息をついた、と、ほぼ同時。

顔を背け、絨毯をじっと見つめていたから、気付けなかった。

にゅっと伸びてきた腕が、俺の頤へと差し向けられていたのを。



引き寄せられる。



絨毯とのお見合い時間が、ぶったぎられて。

無理矢理顔面を固定され、俺はスクと見つめあうことしかできなくなってしまった。

「何か、用があって来たんじゃねえのかぁ?」

「あ……」

ふ、と柔らかい笑みが一瞬見えて、肩に入っていた力が抜ける。

目を逸らすことを許さない手は、未だ俺の頤に触れたまま。

ドキドキする。

スクのそういう、一見些細な、けれど色っぽいスキンシップが……好きだけど、嫌い。

喉の奥で、捧げたい言葉を詰まらせながら、俺は少しだけ瞳を動かした。

チラリと見えた、白。

おそらくスクアーロが脱ぎ捨てたと思われる学校指定のワイシャツだ。



「あ、のさ」

「おう」



気付かれないよう、極力身体を揺らさないようにして、手を伸ばす。



「俺、どうしても言いたいことが、あって」

「なんだぁ」



指先に触れる、よく見知った布地。



「だけど、スク、教えてくれてなかったから…!さっき廊下で会ったディーノさんが言ってくれなかったらずっと知らないままになるところだったよ!」

「あ?ああ?何のことだぁ?」



さっと、引き寄せる。







「誕生日おめでとう!バカ!」







バサ、とテーブルクロスを広げるようにワイシャツを掲げる。

そのまま。

スクアーロの頭部を覆って、引っ張りこんだ。

「おおわ!?」

俺の方へと倒れこんでくるスクアーロを受け止めて、そっと。

額、と思われる部分へ洗礼を。







「事前に聞いてなかったから、プレゼントはまだ用意できてません!もう……こんにゃろう!」

スルスルと。

鼻へ、目へ、額へ、頬へ。

布ごしに唇を寄せながら俺は憤るままに口調を荒げる。

だって、スクアーロの誕生日だったのに。

初めて一緒に祝えるはずの、誕生日だったのに。

きちんと準備できなかったことが、悔しすぎた。

「今から、ちょっと色々買ってくるから…!スクは部屋に居てね!どっかいっちゃダメだよ!」

幸い、今日は午後から職員会議で授業はない。

なんとか…夕食までには何かをしたい!

「ね!絶対だから、ね!」

約束!約束するため!……と自分に言い聞かせて。

ワイシャツを下にずらしてスクの身体に羽織らせれば、目を見開いたスクと視線がかち合った。

うん。そのまま。ちょっと固まっててよね。

不甲斐なさとか悔しさとか、あと、嫌がらせされた腹いせの勢いとか、全部をひっくるめて己を奮い立たせて。







チュっと。







わざと音を立てて離れれば、案の定、スクアーロはカチンコチンに凍ったまま。



「じゃあ、いってくるから!」



正気に戻られる前に、俺は慌てて背を向け、訪れた時と同じように勢いよく部屋を飛び出していた。

真っ赤に染まった頬を、絶対絶対、見られないように。









「う゛お゛ぉい…!あい、つ…!」

反則じゃねえのか、今の…!

一人ベッドの上でのたうちまわりながら、スクアーロはただただ、ツナヨシの帰りを待ち続けるのでありました。







青い果実の報復合戦





藤谷陽子さん、リクエストありがとうございました!!